TPPについての見解

                  森 洋一

TPPについての議論がなされています。それ以外に、FTAEPAという言葉も耳にします。TPPとはどういうものなのでしょうか。一度じっくりと考えてみる必要があります。

FTA(自由貿易協定)は、2カ国以上の国や地域が相互に関税や輸入割当などその他の貿易制限的な措置を撤廃あるいは削減する事を決めた協定です。無税で輸出入が出来るようになり、消費者にとってはメリットがあります。

 80年代末までは、世界でも16件のFTAしかありませんでしたが、90年代には50件増加、00年代から09年代までに105件の増加で、現在世界には170近くのFTAが存在します。日本では、011月のシンガポールとのEPA交渉の開始からFTAの歴史が幕を開けました。

 EPA(経済連携協定)は、関税やサービス貿易の自由化に加え、投資、政府調達、知的財産権、人の移動、ビジネス環境整備など幅広い分野をカバーし、相手国と「連携」して貿易や投資を拡大します。FTAをさらにすすめたものと考えて良いと思います。日本は、0211月にシンガポールと初めてのEPAを締結しました。0812月にはASEAN全体との間でAJCEPASEAN・日本包括的経済連携協定)が発効しました。現在も、オーストラリア、インド等ともEPA交渉を行い、過日インドとのEPAが締結されました。

一歩進めた、環太平洋戦略経済連携協定(TPP)についての議論がここ数年進められています。これは、シンガポール、ニュージーランド、チリがAPECサミット後に2002年に交渉開始したのが始まりで、2006年にブルネイを加えた4カ国で発効。2008年に、米国(ブッシュ政権)がTPPに全面的に交渉参加する事を決定。2009年、オバマ政権が、APECサミットにあわせTPPへの交渉参加方針を表明。20103月に政府間交渉を開始しています。現在、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの9カ国が24の分野で作業部会を設置して協議を進めています。

 ここで一番大切な事は、当初は二国間から始まった、関税、障壁の撤廃による貿易の活性化でしたが、現在のTPPは、環太平洋諸国が一致して中国に対抗しようという外交戦略とも絡んできている事です。日本では、輸出産業と農業の問題が取り上げられていますが、大きな外交政策を含んでいる事を念頭に置いて議論を進めなければならないと思います。

一方で、オバマ政権は、低迷する経済、雇用環境から政権の浮揚政策としてTPPによる輸出の拡大を大きな経済政策として打ち出しており、協議中の24の分野の指定なども米国主導で決定されたものといわれており、TPPの中心的役割、牽引車として交渉を進めていくものと思われます。

では、TPPに参加すると、一気に広い分野での自由化が進むのでしょうか。FTA,EPAをみていても、それぞれの分野での地道な交渉が進められており、双方の利害を十分調整した上での協定となっています。現在、菅首相は、「平成の開国」「第三の開国」とTPPへの参加の重要性を訴えていますが、果たして、TPP参加しないと日本は鎖国状態に陥るという考えは妥当でしょうか。少なくとも、我が国が現在多くの国とFTAEPAを締結し貿易、交流を行っている事実からすれば、TPPへ参加しなければ開国しないという訴えは、何らの正当性もありません。また、先に述べたように外交政策も大いに関与するために、我が国の外交方針の明示も欠かす事ができません。その上で、TPP参加で、有利な面、どの分野が利益をどの程度上げるのか、そして、反対の声が強いが農業分野でのダメージはどの程度あるのか、それを補う方策はあるのか。農業以外のどの分野が不利益を被り、その総額はどの程度になるか等など、もっと具体的な数字を国民に示し、その意義を問うべきです。米国は、自国の強みである、農業、医療分野で強硬な方策を採るのは必至です。医療分野においても、国はどう対応するのか。現在の、医療崩壊につながるような対応はしないという程度の表現ではなく、医療における人的、資本的な自由交易は認めないという明瞭な意思表示を行う事が大切です。

このように、これからの日本の経済、産業を大きく変えていくことになるTPPへの参加を、国民に十分な情報を明示しないまま、6月には結論を得るという、まさに拙速きわまりない、また、24に及ぶ分野での我が国のメリット、デメリットを国民に明示しない議論の推進は、日本の将来に暗雲をもたらすものでしかないと思います。それほどまでに、拙速に進める事で一体誰が利益を得るのか十分に検証すべきだと考えます。

我々は、政府の、「混合診療は許容しない、株式会社の医療機関経営を認めない」とする明確な方針が示されない限り、TPPへの参加は、株式会社の医療への算入、特に外国資本の算入による病院経営や人的な交流による外国人医師、看護師の限度なき国際化が進められるなど、崩壊寸前の我が国の医療に壊滅的な打撃を与える事になるので、これからも反対していかなければならないと考えます。