混合診療って、どういう事かわかりますか?
最近、民主党の経済対策の一環として医療ツーリズムが取り上げられています。その中で、混合診療という言葉も出てきますが、この二つの言葉の定義や意味が皆さんには分かりますでしょうか?
おそらく、大半の方が明確には理解できないと思います。取り敢えず、今回は混合診療についてお話しましょう。保険診療については、皆さん一度は医療機関を受診された事がおありでしょうからおわかりだと思います。我が国は、昭和36年以降、国民皆保険制度が実施されており、自営業や引退して無職の方などが加入される地域保険としての国民保険と国家公務員や地方公務員が加入する共済保険や中小企業、大企業に勤務されている方が加入する健康保険などがあり、原則、保険料を支払い加入する事になっています。勿論、収入により保険料は異なり、保険制度により多寡はありますが税金も投入されております。保険に入っている方は、保険証を提示すれば、原則全国どこででも医療を受ける事が出来ます。これが保険診療といわれるもので、我が国の安価で質の高い医療を支えてきました。しかし、最近は医療の世界における、検査機器や治療機器、がん治療薬を始めとする薬剤においても医療の発展はめざましいものがあり、その発展に制度がついて行けないというのが現状です。
そこで、いろいろと問題が出てきます。保険診療で実施される検査や、投薬される薬は、薬剤の安全性や有効かどうかを確認した上で承認されており、保険適用の承認を受けないと保険診療で使用できません。そうでないと、副作用が治療効果を上回ったり効果が十分でない薬剤が投与されたり、また、危険性の高い検査などが実施され患者さんに害を与えるおそれがあるからです。そのためにしっかりと審査を行い有効性が確認された薬剤や安全性の確認された機器、検査が保険適用となり使われてきました。しかし、医学・医療の進歩は年めざましく、次々と新しい薬剤や検査方法が開発されてきました。そのために、薬剤の審査や検査機器の承認が間に合わず、諸外国で有効として使用されている薬剤、特に抗がん剤などが日本では承認が遅れ、保険適用とならず使用できないという事態に陥っています。
一方で、薬剤の効果や副作用が十分に検討されず保険適用の承認を受けていない薬剤を無制限に使用されますと患者さんの健康被害が発生した場合の責任問題などへの対応が困難となる場合もあります。そのために、効能効果が我が国で承認されていない薬剤などを使用した治療や検査を実施する場合には、保険を使わずに全て自費診療でおこなうように決められています。そのために、欧米では効果が認められている抗がん剤などを我が国でも使用できるようにしてほしいとの要望が強くなってきました。健康保険制度で未承認の薬剤を保険外の実費で使用することを認めてほしい。その際には、薬剤費など保険で承認されていないものだけを実費で、それ以外の診療費や検査費用は保険診療でしてほしいというのが混合診療と呼ばれるものです。一見妥当な要望のように思われるのではないかと思いますが、これには、大きな問題が沢山含まれています。
まず、保険診療の対象となっていない薬剤の価格は自由に設定できるという事です。生命がかかっている患者さんにとっては、価格が高くても治るのならば使いたいというのが偽らざる気持ちでしょう。医療機関も保険収載されると薬剤の価格を自由に設定できませんので自費で支払ってもらう方が有利です。そうなると、有効な薬剤も保険適用されないままに放置され、高い価格で使用する方が薬剤メーカーも医療機関もありがたいという事態になりかねません。そうすると、いつまでも保険適用されないために、高価な薬剤は全額自己負担となり、治療費が高価となり、貧しい人には使いにくい状況が続きます。従って本当は、諸外国で有効とされている薬剤や治療機器、検査などを出来る限り早く保険適用にする事が大切です。そうすれば、混合診療という話は出てこなくなり、より多くの患者さんが最新の治療を保険診療で受けられるようになります。これがあるべき姿だと我々は考えています。ただ、国の対応は遅々としており、不十分だといわざるを得ません。
そこで、このような事態を改善するために、現在保険外併用療養費という制度が導入されています。厚生労働大臣の定める「評価療養」と「選定療養」については、保険診療との併用が認められており、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われ、その部分については一部負担金を支払うこととなり、残りの額は「保険外併用療養費」として健康保険から給付が行われます。この「評価療養」言われる部分に、先進医療や薬価基準収載前の承認医薬品の投与などが含まれます。この制度を活用する事で諸外国で有効とされ我が国では承認されていない薬剤などの使用が可能となっております。そして、有効性が明確になれば出来る限り早急に保険適用にしていこうとされています。今ことさらに、混合診療導入などと声高に訴える事は何か別の意図があるのではと勘ぐってしまいます。我々が望むことは、より良い治療をより多くの人たちに提供できるシステムの構築と財源の確保です。これを忘れてはならないと思います。